
「移転の件、まとめておいて」。ある日そう言われて、やることを表計算のソフトに並べて、日付を入れた。ところが、業者の返事待ちで2週間止まる。レイアウトは作り直しになる。上司には「今どうなってる」と聞かれてから報告している。
この講座は、その場面のためだけに作りました。プロジェクトマネジメントを学んだことはないけれど、任された。専任のプロジェクトマネージャーではなく、本業を持ちながら担当になった。総務、情報システム兼務、営業事務、現場のリーダー。そういう方に向けて作っています。
■ 先に、扱わないことをお伝えします
用語の暗記はしません。資格試験の対策もしません。大規模なシステム開発の手法も扱いません。専用のツールも使いません。使うのは表計算のソフト1つだけです。プロジェクトマネジメントには世界的にまとめられた体系がありますし、資格試験もありますが、この講座では名前をお伝えするだけで、中身には入りません。
技法を増やす講座でもありません。プロジェクトが遅れる理由は、技法が足りないことより先に、紙に書かれていないことが2つあるからだと考えています。1つは「何ができたら終わりか」。書かれていないと、手戻りになります。もう1つは「誰がいつまでに決めるか」。書かれていないと、待ちになります。
■ 架空の会社「つばさ商事」の移転を、13週間まるごと通します
使うのは、つばさ商事という架空の会社です。産業資材の卸、従業員48名。南営業所の12名を、9月1日から11月30日までの13週間で新しいオフィスへ移し、12月1日に営業を始める。メンバーは5人、決める人は管理部長、予算は480万円。作業は6つの大項目、全部で38作業です。実在の会社ではありません。数字もこの講座のための設定です。
途中で別の例に飛びません。1件の移転が最後まで1本につながっていると、自分の案件に移すときに迷わないからです。題材が移転なのは、情報システムの知識が無くても最後まで進めるようにするためです。
■ 視聴開始から7分で、最初の実感があります
第1章の3本目で手を動かします。つばさ商事の初版のWBS38作業を上から見て、「何ができたら終わりか」の列に、第三者が○×を付けられない書き方を見つけて印を付ける。調整する、検討する、対応する、確認する、それに空欄。数えると15件、率にして39%です。書いたのは総務4年目で初めてプロジェクトを担当する人で、特別に雑だったわけではありません。初めて書くと、だいたいこうなります。そのあと、自分の仕事の終わりの1行を、いつ・何が・どんな状態、の3つの箱で書きます。
■ 分ける単位は、作業ではなく成果物です
WBSは、やることを思いつく順に並べるものではありません。成果物から分けて、1つ1つに担当と完了の目印を付けます。粒度は1人・1週間・目印が書けるまで。細かくしすぎると、管理の作業が本体を食います。つばさ商事は38で止めました。
抜けが出る場所も決まっています。つばさ商事のWBSで「終わったあと・外側・周知」にあたる作業は11件、約3割でした。抜けは、進行中の作業ではなく、終わったあとに集まります。
■ 38作業のうち、期日を決めているのは9作業だけです
前後関係を引くと、期日を決めているのはクリティカルパス上の9作業、合わせて11週間だと分かります。残りの29作業には余裕があります。全部を同じ強さで見張ろうとするから、見るものが増えて、肝心の9作業が見えなくなります。
そして余裕の2週間は、各作業に少しずつ足しません。終わりの前にまとめて置いて、名前を付けて見せます。11週+2週で13週。これは私の実務上のやり方です。
■ 急がせても、効きません
つばさ商事は13週間で9件・30日の遅れが出ました。内訳は、待ちが5件で19日、手戻りが3件で9日、作業そのものの読み違いが1件で2日。日数で見ると63%が待ちです。つまり、作業をしている人を急がせても、この30日はほとんど減りません。減るのは、決まらない時間と、やり直しのほうです。
これはつばさ商事1件の数字であって、統計ではありません。ただ、私が社内の小さなプロジェクトを回してきた実感とは一致しています。
■ 都合の悪いことも、先にお話しします
計画どおりには進みません。つばさ商事も、クリティカルパス上で11日の遅れが出て、余裕14日のうち11日を使い、残りは3日でした。それでも12月1日に営業を始められたのは、余裕を終わりの前にまとめて置いて、毎週その残り日数を見ていたからです。
リスク一覧も、当てものではありません。候補24件から8件に絞り、上位3件に引き金と事前の手を書きましたが、その3件は1つも起きませんでした。しかも、いちばん大きかった遅れは、8件の中に残っていませんでした。それでも8件を書いた意味はある、というところまでお話しします。
途中で仕事も増えます。つばさ商事では第6週に「会議室をもう1つ」という要望が出ました。その場で答えず、影響を数えてから返す。内装のやり直しで工事が3日延びると分かり、12月1日には要らないと判定して残件へ回しました。
■ AIには、抜けの指摘だけを任せます
第3章にAI演習を1本置きました。WBSの抜け候補をAIに挙げさせる回です。とくに「終わったあと・外側・周知」は、AIのほうが機械的に拾います。Claude・Gemini・ChatGPT の3つを並べて使いますが、無料で使える範囲で足ります。どれを残すかの判断、担当と期日の決定、完了の目印の確定は、AIには任せません。
■ 手を動かす資料
プロジェクトの整理シート(6タブ=終わりの1行と初版WBS38作業/はじめの1枚/完了の目印つきのWBS修正版と自社版/週単位スケジュール/リスク一覧/週報1枚と振り返り3問)、AI用のプロンプト集4本、はじめの1枚と週報のテンプレート、小テストの設問集です。自分の案件をまだ持っていない方は、つばさ商事の設定のまま最後まで進められます。
■ 誰のための講座か
初めて3か月・数人の社内のプロジェクトを任された方に向けて作りました。移転、展示会、制度の導入、研修の立ち上げ。題材は違っても、決めることは同じです。情報システムの専任がいない会社の総務・経理・営業事務・経営企画の方、大きい会社で部署のプロジェクトを任された若手・中堅の方、そして中小企業の経営者・後継者にも同じ4枚が使えます。
講師は、社内の小さなプロジェクトを実際に回してきた側です。自分の会社でも複数の案件を同時に動かしていて、毎週WBSと1枚の報告を回しています。うまくいったものとそうでなかったものを分けていたのは技法の量ではなく、最初に紙に書いたことの量でした。
見終わったとき、あなたの手元にはWBS・スケジュール・リスク一覧・週1枚の報告の4枚が残ります。本編は全32本。まずは、いま任されている仕事の終わりを、いつ・何が・どんな状態、の1行で書くところから始めてください。