
コースの目的と全体像を確認します。また、コース成功の条件について、以下の点をお伝えします。
・楽しく取り組むこと
・交渉は実践力かつ応用力が必要。人間や組織そのもののあり方について深く考えること
・交渉とは創造的な問題解決の手法でもある。自分の狭い視点だけに囚われない柔軟さを持つこと
まず、改めて交渉とは何かを考えましょう。交渉とは対立・衝突を乗り越えて合意を目指す双方のプロセスですが、合意そのものを目的にしてしまっては賢い合意に至らない可能性もあります。また、交渉について学べばどんな場合でも自分に有利な結論を引き出せるわけではありません。交渉を学ぶことによって理解できることは何か、ここで整理しておきましょう。
意識的に交渉を考えるとき、多くは現状を何とか変更しようとしているからでしょう。それは自分が現状変更を迫る側かもしれませんし、迫られる側かもしれません。多くの場合、私たちが避けたいのは現状変更を迫られて押し切られることと、現状変更をしてほしくても相手が相手にしてくれないことです。どうすればそういったパワーゲームを避けられるのか、交渉の枠組みの中では競合戦略と協調戦略をバランスよく使って対応していくことになります。交渉における大きな2つの枠組みを押さえましょう。
競合戦略(相手との力関係を変える戦略)において押さえるべき概念としてBATNAとZOPAがあります。これは交渉を学んだというためには必ず知っておくべき概念ですので、まず最初に頭出しをしておきます。
交渉の難しさは、実際の人間関係の中で相手が必ずしも自分と同じような成熟度・理解度を持っているわけではないということです。同じ情報を持っているわけでもなく、同じ情報を見ても理解度が異なり、そして精神的な成熟度も違うという意味で、非常に属人的なものにならざるをえないということです。もちろん私たちは成熟度を高めることを自分自身として目指す必要はありますが、相手の状況を見極める必要がある点も押さえておきましょう。
交渉における信頼関係の重要性を具体的に理解しておきましょう。ここでは「囚人のジレンマと繰り返し囚人のジレンマ」というゲーム理論のモデルを用いて「自分から裏切らないこと」が最も長期的な利得が高くなるということを理解しましょう。したがって、短期的に勝つための交渉術などはこの文脈で悪手になるということを押さえてほしいと思います。
ここでは交渉テクニックについて内容を紹介します。自ら進んで使うというよりは、相手に対する防御として知っておくと良いでしょう。不必要に多用してしまうと信頼関係を壊してしまいますので注意してほしいと思います。
交渉の中では相手の出方によっては感情を揺さぶられることもあるでしょう。感情コントロールは必要ですが、それは感情をなくすことではありません。どのように対応したらよいかを考えましょう。
第1章の最後に衝突・対立があるからこそイノベーションが起こるという点にも触れておきたいと思います。自分の頭の中で分かっていることだけで革新的なことが起こるわけではなく、対立があるからこそ見えなかった世界が見えるものです。他社との対話(交渉)をそのように前向きにとらえられるようになると更に有意義なものになっていくでしょう。
■扱う事例
・相模屋食料
・蓮舫氏の「2位じゃダメなんでしょうか?」質問の意味
第2章では交渉における準備について具体的に考えます。ここでは準備として何を行うかを押さえましょう。
まずは交渉目的を押さえます。そもそも何のために交渉するのかを明確にしなくては、単純な勝ち負けだけに終始してしまいます。あくまで取り得る方策は手段に過ぎず、目的に照らせば様々な可能性があるはず。改めて交渉目的(最終ゴール)を押さえる中で、相手の提案に対する判断もスピーディに行えるようになるでしょう。
■扱う事例
・自動車業界の値引き要請交渉
次に交渉相手の特定について考えます。普段交渉相手の適格性について考えることは少ないかもしれませんが、そもそも適切でない相手と交渉していても時間の浪費でしかありません。しかし、意外と現実世界においては「誰と交渉したらよいのか」は明らかではありません。交渉の効率を高めるためにも、是非交渉対象についてこだわってほしいと思います。
■扱う事例
・インドネシア高速鉄道に関する建設計画交渉
・フィアット・クライスラーとルノーの合併交渉
参考として交渉対象の信頼性チェックについてお話します。交渉相手が本当に意思決定できるのか、あるいは意思決定権者にアクセスできるのかを交渉の中で確認していく必要があります。「実は話が通っていませんでした」などということのないよう、重要な交渉であればあるほどそのクレディビリティについては意識をしておきましょう。
■扱う事例
・日朝首脳会談(2002年)におけるミスターXの信頼性
次に時間軸・タイムスケジュールについて確認をします。基本的に交渉というのは「決めなくてはいけない側」の方が弱いものです。スケジュールに余裕がある、あるいは期限がない側の方が強いわけですので、相手のスケジュールを知ることはそれだけで交渉力が強くなるようなものです。一番自分に交渉力があるタイミングで交渉に入ることも重要です。
■扱う事例
・第1次トランプ政権における米中関税戦争
・第2次トランプ政権におけるホンダとトヨタのHV電池をめぐる提携
ここからは実際の情報収集に入ります。情報収集によってどのような提案にしていくのか具体的な事例を見ながらイメージを持ちましょう。相手の真のニーズをつかんだり、論点の優先順位を知るためにも非常に重要です。
■扱う事例
・ある建設メーカーの倉庫建設
それではどの程度まで情報収集するのかという問題を考えましょう。本当に重要な交渉であれば交渉相手個人について調査をすることも少なくありません。また、M&Aなどでも人事デューディリジェンスとしてキーポストの社員について調査することもあります。多くの交渉が情報戦であることを考えれば、「そこまでするのか」というレベルまで調べるということを知っておきましょう。
■扱う事例
・キヤノン電子酒巻社長の情報収集
・キャンプ・デービッド合意における米・エジプト・イスラエル首脳交渉
第2章の最後として情報収集の過程における態度形成について触れておきます。情報収集といったとき、当然交渉相手にヒアリングをすることもあるでしょう。それらの過程を通じて相手との信頼関係を築いていく必要がありますが、それは単なる交渉術ではありません。相手のもつ自分への態度をいかに形成するのか、複眼的に考えてみてほしいと思います。
ここからは2つの交渉戦略のうち、競合戦略に入ります。まず、全体のケーススタディとして米国における労使交渉を扱いますので、その内容説明を行います。
■扱う事例
・全米脚本家組合(WGA)vs. 映画・テレビ制作者協会(AMPTP)の労使交渉
第1章でも出てきたBATNAですが、ここで具体的な策定手順を考えます。BATNAは「この交渉が失敗した場合の代替案」ですので、取引条件を変えるなど、この交渉の別の落としどころを探るようなものではありません。その点、BATNAがないケースもありますので注意しましょう。
BATNAについて演習で具体例を考えます。
演習問題の回答例です。
BATNAにも関係しますが、相手の言っている代替案が本当にとりうる選択肢かどうかは正直分からないものです(ブラフかもしれない)。逆に言えば、自分の主張もブラフだと思われるかもしれません。そこで、どのようにすれば信憑性を高めることができるのか、実際に行動を起こしていく必要があります。
BATNAで重要なことは、自分の選択肢を強めると同時に相手の選択肢を弱めることが大事だという示唆があることです。力関係は常に一定なわけでもなく、様々な要素によって入れ替わるものです。相手のBATNAを少なくする、あるいは弱めるという発想を持ちましょう。
■扱う事例
・Bond大学のオンラインMBAとハーバード大MBA
BATNAがないケースもあるという説明をしましたが、ではそういう場合はBATNAを考えること(=交渉が成立しない際にどうなるのかを考えること)は無意味なのでしょう。そんなことはありません。冷静に交渉の価値を見つめ直すことそのものが交渉力につながりますので、やはりBATNAは重要であるということを押さえましょう。同時に、実際に選択肢を持つには日常的な情報収集が欠かせないという点も押さえてください。
米国の労使交渉ケースにおけるBATNAを考えます。
演習問題の回答例です。実際にとられた内容を紹介します。
補足として、自分に最終決定権があることが重要かどうかについて触れておきます。こちらも交渉術の中で語られることではありますが、臨機応変にスタンスを決めておきましょう。
次に協調戦略の内容に入ります。協調戦略はお互いのニーズを満たして交渉から得られる満足度を高めるものです。Win-Winという中にも違いがありますので、よりよい合意を目指しましょう。
協調的交渉のプロセスを押さえます。どうしても手段の対立に目が向きがちですが、相手の真のニーズを理解するように努めましょう。競合戦略によって相手が自分と交渉せざるを得なくする一方で、「その提案なら受け入れられる」と思わせる提案を出すことが重要です。
■扱う事例
・キャンプ・デービッド合意における米・エジプト・イスラエル首脳交渉
協調的交渉のフレームワークを踏まえて「メールで報告をしてくる部下」という演習を考えます。
演習の回答例です。
協調戦略のポイントは情報収集による論点の拡張・細分化です。どのように価値の交換可能性を見出せるかが重要ですので、取引条件などどういった論点がありうるのか、引き出しを多く持っておきましょう。
様々な論点の可能性がある中で、交渉によって重要アジェンダは異なるはずです。自身と相手にとって重要性が高いアジェンダをいかに設定するかは交渉そのものよりも重要です。まずは交渉の枠組みを決める視点を持ちましょう。
論点ごとに主張と論拠があるはずです。もちろん論拠は複数ありえるので、一つの正解があるわけではありません。しかし、より説得的な論拠がなければ相手が納得しないのも事実です。逆に相手の論拠の不備を突いて譲歩を迫ることもあるでしょう。身近な事例を使いながら論拠に着目する視点を持ちましょう。
■扱う事例
・豊橋市民病院におけるコスト削減交渉
・米VerizonによるYahoo!買収交渉
・「103万円の壁」を巡る与野党の交渉
論点を複数出したら、それをパッケージで一括合意することが有効です。一つずつ固めていくと、結局全体としての妥協が難しくなるものです。パッケージ合意の重要性を押さえましょう。
■扱う事例
・ブダペスト覚書
パッケージ合意は重要ですが、一方で譲れない項目というものはあるものです。この交渉の中で取引条件にならないような項目がある場合、パッケージ交渉を進めるわけにはいきません。ここでは2つの事例を用いながら「譲れない項目」の難しさについて考察してほしいと思います。
■扱う事例
・日露平和条約交渉
・日EU経済連携協定交渉
交渉時に有益な質問や整理、経緯に関する合意について触れます。
非常に難しい交渉の場合、ビジョナリーな共通目標を提示することによって「同じ目標に向かう仲間」という構図を作ることもありえます。ここでは孫正義の交渉について見てみましょう。
■扱う事例
・SoftbankのiPhone独占販売権獲得交渉
・孫正義のリクルート青野氏の引き抜き交渉
共通目標の設定は孫正義だけのものではありません。身近にも多くそういった事例はあるもので、ご自身でも強い共通目標を設定できるほどの思いがあるかどうか確認してみましょう。
■扱う事例
・東レとユニクロのヒートテック開発
・漫才協会の緊急理事会
演習問題として、米国の労使交渉における論点出しを行ってみましょう。
演習問題の回答例です。
続いて、論点を出したのち、どれが譲歩できる項目で、どれが譲れないものかを考えてみましょう。
演習の回答例です。実際の交渉結果を見てみましょう。
補足として、文書化・ドキュメンテーションの重要性を考えます。日本企業の海外進出案件などではこのドキュメンテーションで失敗するケースも多くありますので、改めて契約書や文言化の重要性について押さえましょう。
ここで総合演習としてリニア新幹線の建設工事交渉について考えます。今までの学びを受けて、どのような論点やBATNAがあり、JR東海はどのような方策があるのかを考えましょう。
■扱う事例
・JR東海と静岡県によるリニア新幹線建設工事交渉
演習問題の回答例(論点整理)です。
演習問題の回答例(交渉の評価と解決策例)です。
ここからは多数当事者間の交渉について注意点を考えます。まずはステークホルダーを全員押さえているかを考えます。特に政治的案件や海外案件などでは巻き込む相手が漏れていると案件自体がストップしかねませんので注意しましょう。
■扱う事例
・松下電器産業とグリンピース ~冷蔵庫をめぐるやり取り
多数当事者間の交渉では、そもそも利害関係が複雑化すること、また協力するグループなどの規模によって交渉過程における行動が変わってくることなど、1対1の交渉とは違う難しさが発生します。だからこそ、そもそもの事前ルール決めが重要で、特に意思決定方式を決めることが肝心です。決められる会議体、組織体にする必要がありますので、まずは「決め方を決める」重要性を押さえましょう。
次にファシリテーション、ファシリテーターの重要性について考えます。組織体でいえば議長ポストということになりますが、それぞれの当事者から中立の立場でいかに妥協案を構築できるかが重要です。
当事者が増えるほど「何が事実なのか」についても曖昧になっていきます。特に思想信条が違う相手となると、事実の前提条件や仮定も異なることが多く、ときに事実の認定だけでも交渉がストップしてしまうことがあります。ここでは共同事実確認という手法によって状況を打開することを考えてみましょう。
■扱う事例
・ニューヨーク市のブルックリン区ネイビーヤードのごみ焼却場問題
・フランスとアルジェリアの植民地化の歴史研究
グローバル交渉での注意点を押さえます。文化背景が違う相手との交渉ではファクトとロジックが基本になること、自分の当たり前が当たり前でないことを改めて押さえましょう。
全体のまとめです。ここまで交渉に関する学びを続けてこられていかがでしたでしょうか。知っている内容も、また知らない内容もあったかもしれませんが、交渉を単に自分が有利になるために使うテクニックとしてだけでなく、相手との信頼関係をより強くしていくための方策と出来ると長期的によりよい社会になっていけるはずです。衝突はイノベーションの起点であることを踏まえ、一段上の自分になっていくため、是非場数を踏んで応用力をつけていきましょう!
1.【受講者の悩みや問題】
基本的な交渉理論やハーバード流交渉術は学んだが、現実のシビアな交渉場面では知識をうまく活用できない
日常の営業活動が相手への「お願いベース」になり、主導権が取れず、提案の価値を十分に伝えられない。また、相手のパワーゲームに巻き込まれ、押し切られたり、不利な条件を受け入れたりする状況が頻繁に起こる
交渉を始めるにあたり、具体的に何をどこまで準備すればよいのかが分からない。結局、場当たり的な対応になってしまう。短期的な利益を追求しすぎてしまい、長期的な関係構築や信頼形成にまで目が届かない
実際の交渉経験が乏しいため、自信を持ってタフな交渉場面に向き合うことができない
交渉力を継続的に向上させるための具体的な日常的トレーニング方法が分からず、結局スキルが伸び悩んでいる
複数の利害関係者が関わる交渉シーンにおいて、相手や状況に振り回されてしまい、自分が主導権を握って合意を導けない
そんなあなたのために、このコースを作りました!
2.【このコースの特徴】
しっかり4時間半の動画コースで本格的にビジネス交渉の大きな枠組み(競合戦略・協調戦略)を学ぶことができる
豊富な実例を見ながら、交渉の実際について理解することができる。「JR東海と静岡県によるリニア新幹線建設工事交渉」など、実際の課題を扱う演習を考えることで、より臨場感の高い学習ができる
交渉に臨むための準備手順が明確に分かり、具体的なアクションを取れるようになる。短期的な損得に左右されず、長期的な信頼関係を築き、持続的なビジネス成果を出せるようになる
交渉を「イノベーションを生む創造的問題解決」の手段と位置付けており、自分一人では思いつかない方法を生み出すものとして積極的にとらえている
複雑で多人数の交渉でも主導権を握り、話をまとめられる調整力が身につく
※ 本コースでは心理的なテクニックを使った「交渉術」については触れません。より構造的な枠組みを扱うものですので、短期的な心理戦を学びたい方には不向きな内容ですのでご注意ください。
3.【カリキュラムの概要】※扱う事例(一部)も紹介
第0章:はじめに
第1章:交渉とは何か
- 事例:蓮舫氏の「2位じゃダメなんでしょうか?」質問の意味など
第2章:交渉の準備
- 事例:インドネシア高速鉄道に関する建設計画交渉/日朝首脳会談(2002年)におけるミスターXの信頼性など
第3章:競合戦略:交渉を有利に進める ~BATNAを巡る攻防
事例:全米脚本家組合(WGA)vs. 映画・テレビ制作者協会(AMPTP)の労使交渉
第4章:協調戦略:交渉でパイを増やす ~論点の拡張とパッケージ提案
- 事例:「103万円の壁」を巡る与野党の交渉/SoftbankのiPhone独占販売権獲得交渉など
第5章:多数当事者間の交渉
- 事例:ニューヨーク市のブルックリン区ネイビーヤードのごみ焼却場問題など
※総合演習として、「JR東海と静岡県によるリニア新幹線建設工事交渉」を扱います。
■ 補足事項
事例・データは2025年5月(コース作成時の最新情報)までのものを使っています
上述のように、心理的なテクニックを使った交渉術については扱いませんのでご注意ください。